Lily Style 女性経営者インタビュー [第五回]

代表取締役社長 並木里也子

女性経営者インタビュー第五回目のゲストは、初の海外居住者です。英国の重要建造物に指定されている18世紀のマナーハウスと古い庭園のあるフォーダムアビーを購入し、日本酒を醸造しているDojima Sake BrewaryのCEO(最高経営責任者)、橋本清美さんをお招きしました。

清美さんは大阪市にあるビール醸造会社、堂島麦酒醸造所の副社長。同社の社長である夫の橋本良英さんは200年にわたる長い歴史を持つ蔵元「寿酒造」の専務でもあります。清美さんは、英国でほんものの日本酒を造りたい、そして英国にとどまらず欧州に日本の食文化や伝統工芸を知ってもらいたいという思いで、この地に日本酒の醸造所を立ち上げました。

今回のインタビューでは、清美さんに英国でビジネスを立ち上げるまでのご苦労、異国の地での従業員との向き合い方、女性がトップであることのメリット・デメリットについてお聞きしました。

里也子:英国で外国人が開発許可を取得するのは大変だったのではないですか?

橋本:英国で開発許可を取るのはただでも大変なのですが、私が偶然出会い、雷に打たれたようにここだ!と思ったフォーダムアビーは、歴史的建造物を含む10万坪(東京ドーム約6個分)の土地だったので、ここに酒蔵を建てたいと言ったら候補地探しに協力してくれていた英国の方たち全員から反対されました。
でも、わたしには天の声が聞こえていたので、きっとうまくいくという気がしました。そこで住民や行政の承認を得るために何十回も丁寧に説明を繰り返しました。住民の方からは遠慮なく要望が出されましたが、彼らをフォーダムアビーに案内すると何年ぶりに来ただろうかと言って涙を流して喜んでくれました。私は、それを見て、できる限り住民の皆さんの要望に応えたいと思うようになり、99%は実現したと思います。
開発許可の最終的な判断は、裁判所で10人のカウンセルの多数決によって下されます。外国人の申請にはカウンセル10人のうち4人が反対する慣習があるそうなのですが、私たちは異例の全員一致で許可をいただくことができました。カウンセルの方から「ここは古い土地で、これまで多くの開発申請の審査をしてきましたが、あなたたちのしてきたことは外国人でありながら見本となるべきものでした」と言われ、嬉しさで涙が止まりませんでした。

里也子:日本文化を伝えたいという強い思いと、実現に向けたきめ細かく粘り強い準備によって英国人からも賞賛を受けた清美さんは、すばらしいリーダーだと思います。
清美さんは、きめ細かく母のような気持ちで従業員に接しているのではないでしょうか。女性経営者であることの強みとは何でしょうか?

橋本:コミュニケーション能力でしょうか。わたしは子どもが6人おりまして、「子育てはコミュニケーション」だと思いました。いろんな失敗をして学んだのは、頭ごなしに言わないこと。何か理由があるはずと思い、「どうして?」と子どもに問いかけてきました。そうすると自分が十分に思いを伝えられていなかったのだなと反省することもよくあります。同じベクトルを向いていてもちょっとしたすれ違いは起きます。そういう時はよく相手の話を聞いてみると、根っこのところは同じだと分かり合えます。

里也子:私も子どもが3人いますが、子育てと従業員との関係はほんとに似ていますね。清美さんのお話を聞いて上には上がいると思いました。

橋本:何かを時間通りに止められなかった時、「こうしなさい」と言うのではなく、なぜ時間通りにやめられなかったのかを説明してもらい、今度は時間通りに止めようねではなく、「じゃあ、今度はどうする?」と尋ね、自分の口で言ってもらう。そうすると彼らも同じことを思っていたんだと分かり合えます。

里也子:女性の従業員は私と面談した後に、たとえば面談の中でパンが話題になったら、後で「ここがおいしいですよ」とチャットで教えてくれたりするのですが、男性からチャットをもらうことはないです。男性とのコミュニケーションの取り方ってありますか?

橋本:人それぞれに過去の経験もありますし、性格的なこともおありになるのかなと思いますが、雑談ってすごく大事だと思うんですよ。ちょっとした雑談、それも食べ物を介した雑談。人間っておいしいものを食べるのが好きですし、会議室で急に面談と言われても率直に話すことは難しいので、わたしは食事や雑談でくだけた雰囲気を作ってから聞き出すように心掛けています。そういう話の中に散りばめられたものを拾い上げて、「ああ彼はこうして欲しかったんだ」ということが分かることがあります。

里也子:女性経営者であることによって難しいと感じたことはありませんでしたか?

橋本:英国はダイバーシティ(多様性)の考え方が進んでいるので、女性が上司だということは問題になりませんでしたが、むしろ主人との関係で感じることがあります。例えば、わたしと主人の意見がちがったりしたときに大変だった気がします。笑

里也子:いろいろありますね。笑 最後に、このインタビューを見たり読んだりした方たちにメッセージをいただけますか?

橋本:男性より女性の方が、いったん腹をくくれば強いと思います。強さは男性の場合「俺についてこい」といった形で表にでますが、女性は真綿でくるむような強さを持っていると思います。そばにいると安心感を感じられる。何か問題が起こっても「社長が笑ってるし・・・」と安心させるような強さです。

里也子:清美さんは、日本人の相手を思う気持ち、和をもって貴しとなすという考え方を世界に広 めることが今の日本人の責務だと考えておられ、それはひいては世界平和につながるとおっしゃっています。こうした思いに皆さんが共感してくださっているのだろうと思います。清美さんは、企業の経営者として従業員との間にすれ違いが生じたときなどはどのように対処されているのでしょうか?

橋本:同じ志を持っていることが大切です。年間の売り上げをどうしたいとか、いいお酒を造るということではなく、目に見えないコンセプト、何のためにお酒をつくっているのか、何のためにプロジェクトを進めているのかを従業員に伝えることが大事だと思います。
おいしいお酒を作るのは当たり前、日本を代表して酒造りをしているという誇りを持ってもらい、自分のやっていることがとても意義のあることだ、誰かのためになっていると思ってお酒造りも文化の発信のためのイベントづくりもやっており、そういうことを従業員の人たちと密に話をしてきました。ことあるごとにわたしたちのこの大変な道のりが10年たったとき何かのページに残っているし、わたしはこのプロジェクトの成功しかみえていなかったので、何があっても心配いらない、と信じてぶれることがなかったことで従業員の不安も払拭できたのかなと思います。

里也子:ありがとうございます。わたしもまだ社長になって3年目ですが、経営者がそういうことを言い続けていること、継続していくことが大事なんだと思います。本当に勇気づけられました。女性の皆さんは、そういう女性の持つ優しさや強さにもっと自信を持っていただきたいというエールを感じました。


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