ダイヤモンド半導体パワーデバイスの出力電力・電圧の世界最高値を更新

【プレスリリース】

国立大学法人 佐賀大学
アダマンド並木精密宝石株式会社


研究者

代表者:嘉数 誠
分担者:サハ ニロイ(佐賀大)、金 聖祐 (アダマンド並木精密宝石)、 小山浩司(アダマンド並木精密宝石)、大石 敏之(佐賀大)

研究成果の概要

国立大学法人佐賀大学(以下、「佐賀大学」。本部:佐賀県佐賀市本庄町1番地。学長:兒玉 浩明)は、次世代の究極のパワー半導体ダイヤモンド半導体デバイスを作製し、世界最高の出力電圧、電力の記録を更新しました。宇宙空間の人工衛星を基地局にする無線通信が具体的に進む中で、人工衛星で使われている真空管に代わる高出力、高周波数の半導体デバイスに期待されます。

佐賀大学は、アダマンド並木精密宝石株式会社(以下、「アダマンド並木精密宝石」。本社:東京都足立区新田3-8-22。社長:並木里也子)と共同で、ダイヤモンドの大口径化と半導体デバイスの周辺技術の高度化を進め、次世代のパワー半導体ダイヤモンド半導体デバイスを作製し、世界最高の出力電力および動作電圧を更新しました。ダイヤモンド半導体は、従来のシリコン、シリコンカーバイド、窒化ガリウム、と比べ、放熱性、耐電圧性、耐放射線性に優れており、地上だけでなく宇宙空間でも安定に動作させることができます。

ダイヤモンドは、半導体素材として究極の特性を有することが理論的に知られており、高周波で大電力性能のパワーデバイスとして世界中で研究が行われてきましたが、これまでは、窒化ガリウムの特性が上回っていました。

今回の記録は、昨年9月に発表した世界最高の出力電力値(345MW/cm2)を塗り替える、出力電力875MW/cm2および出力電圧2568Vで動作しました。出力電力値、動作電圧値ともダイヤモンドとしては世界最高で、半導体としては米国MITが発表している窒化ガリウムによる2093 MW/cm2の次の値です。

今後、デバイスの周辺技術の研究開発を進めることで、先行研究を凌駕する性能を目指すと共に、本格的に実用化に向けた研究開発も進めてまいります。

なお、本成果は、世界的に最も権威ある米国電気電子学会(IEEE)のElectron Device Letters誌に掲載されますが、注目論文として表紙に掲載されます。

新ダイヤモンド半導体デバイスの特徴

開発の背景

現在は地上に張り巡らされた携帯電話の基地局を宇宙空間の人工衛星に移そうという計画が現実になる中で、太陽から降り注ぐ宇宙線(*2)に耐える送信用の半導体デバイスが必要となります。半導体ではなく、真空管が用いられているのが現状です。いうまでもなく真空管は半導体に比べ効率が低く、寿命が短いということが課題となっていました(図1)。

宇宙やBeyond5Gに向けた半導体の高周波化・高出力化の必要
図1. 宇宙やBeyond5Gに向けた半導体の高周波化・高出力化の必要

半導体の材料に関しては、シリコン、シリコンカーバイド(SiC)、窒化ガリウム(GaN)などが実用化段階に入っていますが、理想的なダイヤモンドができた場合は、その物理性質上から、SiCやGaNを超える周波数、出力が得られることが理論上わかっています。理想的なダイヤモンドは、シリコンに比べて、約5万倍の大電力高効率化、約1200倍の高速特性が期待されます(図2)。これは、ダイヤモンド半導体の中でも最大の熱伝導率があり放熱性が良く、絶縁破壊電界強度が高いため長寿命であるばかりでなく、キャリア移動度は非常に高いからです。そのためダイヤモンドは、高周波パワーデバイスとして最も適した究極の半導体と呼ばれています。

ダイヤモンドの優れた物性から期待されるデバイス性能
図2. ダイヤモンドの優れた物性から期待されるデバイス性能

ダイヤモンドは、最も硬い材料なので、ダイヤモンドの砥粒でしか研磨することができません。他の半導体は柔らかいため、例えばダイヤモンドの砥粒で削り、平坦化することができますが、ダイヤモンドの粗い表面しか得られていませんでした。半導体デバイスでは、その表面をキャリアが走るため、電流値が低く、すぐに劣化してしまうため、究極の半導体ではあるが、実用化は容易ではないとされてきました。(図3)

技術のポイント

1.大口径ダイヤモンドウェハ結晶の原子レベルの表面平坦化技術(図3)
アダマンド並木精密宝石は、最も硬いことで知られるダイヤモンドの表面を、原子レベルで平坦にするCMP技術を開発し、それを用いて研磨を行ったところ、表面の加工変質層を除去することができ、キャリアによる電気抵抗が約半分に減少しました。

技術ポイント(1)大口径ダイヤモンドウェハ結晶の原子レベルの表面平坦化技術
図3. 技術ポイント(1)大口径ダイヤモンドウェハ結晶の原子レベルの表面平坦化技術

2.ダイヤモンド半導体デバイスの高性能化(図4)
上記の技術を用い、ダイヤモンド半導体デバイスを作製しました。

技術のポイント(2)ダイヤモンド半導体デバイスの高性能化
図4. 技術のポイント(2)ダイヤモンド半導体デバイスの高性能化

3.世界最高の出力電力、出力電圧を更新(図5)
昨年、佐賀大学は世界記録の出力電力345 MW/cm2(メガは100万倍)の値を報告しましたが、それを更新する875 MW/cm2(出力電圧2568V)を達成しました。全ての半導体材料で比較すると、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)によるGaNによる世界記録2096MW/cm2の次に高い値です。

技術ポイント(3)世界最高の出力電力、出力電圧を更新
図5. 技術ポイント(3)世界最高の出力電力、出力電圧を更新

今後の展開

今後は、周辺技術の開発によりダイヤモンドパワー半導体デバイスの性能向上に取り組むと共に、実用化に向けた研究開発を加速し、人工衛星搭載送信用パワー半導体デバイスの実用化に取り組みます。(図6)

デバイス周辺技術により宇宙衛星用パワー半導体デバイスの実用化
図6. デバイス周辺技術により宇宙衛星用パワー半導体デバイスの実用化

用語解説

*1  CMP研磨技術 
半導体ウェハ結晶表面を平坦化するために、化学機械研磨(Chemical Mechanical Planarization)技術を用いて平坦化しますが、ダイヤモンドは最も硬い材料のため、原子レベルで平坦な表面を得ることは不可能とされてきました。ここでは独自の技術で、表面の加工変質層を除去し、原子レベルで平坦な表面を得ることに成功しました。

*2 宇宙線
宇宙空間では、新星などを起源とする高エネルギーの放射線、主に陽子、が飛び交っています。地球上では、大気によって軽減されますが、宇宙空間の人工衛星で、半導体デバイスは、宇宙線によって誤動作したり、デバイス本体が損傷を受け、故障し深刻な課題です。しかしダイヤモンドは、宇宙線に対し最も耐性のある半導体とわかっていました。

研究成果の公表媒体(論文や学会など)

N. C. Saha, et al, “875-MW/cm2 Low-Resistance NO2 p-type Doped Chemical Mechanical Planarized Diamond MOSFETs”, IEEE Electron Device Letters 43, 5, 777 (2022); DOI; 10.1109/LED.2022.3164603.

教員活動DBのリンク先

嘉数 誠 https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.2d82a58bcbe158ac.html

連絡先

佐賀大学
(研究)理工学部 教授 嘉数 誠 TEL: 0952(28)8648
(報道)広報室 TEL: 0952(28)8153

アダマンド並木精密宝石株式会社 広報室 TEL: 03-3919-0101

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